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行動文化(189) 夜逃げ 

師(本邦仙道連の総帥)に次のような観相例がある。
 四十三歳の男。霊道宮に暗濛色。観音像が燃えている。その他一面に八方塞がりの相。家屋敷まで他人の手へわたる破目になっている。それを自分が観音像を焼いた酬いと思いこんでいるが、この男ちとオッチョコチョイ。脅かしてからかってやれ。
 「おまえさん。信仰している観音様を燃やしちゃいましたな」
 「!――」
 「八方塞がり。家屋敷は人手に渡り、夜逃げをしなけりゃならん運勢じゃ」
 「だれも知らんと思うとったのに、先生どうして観音さんを焼いたこと知っとるの?」
 「わしは人相見じゃ」
 「人相でそんなことわかんのかよ」
 「わかるから初対面のお前さんにそういうた。どうしてまた観音様など焼いた。このバチアタリが」
 「そ、それなんだがね、あんまりする事なす事失敗つづきだもんで△△教へいって信心をはじめたんだが、そこの先生が観音をまつれ、そうすれば商売が繁盛すると言いやがるんで一万円で観音さんを――それも松の木かなんかに彫ったやつを買わされてこれで儲かれば一万円はやすい――その時は本気でそう思って、仏壇をつくって朝晩拝んだです」
 「なんといって」
 「カネがもうかりますように」
 「うふ」
 「先生おかしいかね」
 「おかしい。カネはもうからなかったろ」
 「大損した」
 「それで怒っちまって観音さんに火をつけた」
 「そう このインチキ野郎 カーッとなって」
 「どうも困ったことをしたもんだ」
 「先生、観音さんは祟るかい?」
 「ああ、祟るね」
 「そいつは弱った。どうすりゃいい」
 「夜逃げだ」
 「先生、ひとの事だと思ってそうむごい事をいわねえでくれよ。なんとかならねえか」
 「そんな心がけではなんともならん。みーんな自業自得。おっぽったかみさんだって祟ってる」
「カカアは四年前におん出たのに、まだおれの運気に祟ってんのかよ」
「お前さんがおん出るように仕向けたからだ」
「そう何もかも見抜かれちまったんじゃあ敵わねえ。先生のいうとおりにするから助けてくれよ」
「必ずいうとおりにするか」
「うん。する」
「んじゃあ家屋敷を整理して、まず船人足になれ。それから半年たったら屋台車を買ってきて夜泣きソバを売れ。そしてかみさんを連れ戻しに行け。実を云うとな、観音さんなんか祟っちゃいない。祟るというお前さんの心が祟っておるだけじゃ」
 「わかった。夜泣きソバをはじめてカカアを迎えにいく」
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